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201601.13

民事執行法【第76条】<買受けの申出後の強制競売の申立ての取下げ等>についての解説

【第76条】

① 買受けの申出があつた後に強制競売の申立てを取り下げるには、最高価買受申出人又は買受人及び次順位買受申出人の同意を得なければならない。ただし、他に差押債権者(配当要求の終期後に強制競売又は競売の申立てをした差押債権者を除く。)がある場合において、取下げにより第62条第1項第2号に掲げる事項について変更が生じないときは、この限りでない。
② 前項の規定は、買受けの申出があつた後に第39条第1項第4号又は第5号に掲げる文書を提出する場合について準用する。


※【第62条】<物件明細書>
 ① 裁判所書記官は、次に掲げる事項を記載した物件明細書を作成しなければならない。
   一 不動産の表示
   二 不動産に係る権利の取得及び仮処分の執行で売却によりその効力を失わないもの
   三 売却により設定されたものとみなされる地上権の概要

以下、解説です。

本条の趣旨

本来強制執行は、債権者が債権を回収するために講じる手段であるため、強制執行の帰趨は行使する債権者自身が握っていると言えます。そのため、債権者が一度開始した強制執行の手続きを、自己の都合によってその申立てを取り下げることも可能と言えます。この場合、配当要求した債権者など、強制執行に利害関係を持つ他の債権者との調整が問題となりますが、あくまで一債権者と一債務者の個別執行である民事訴訟の性質を考えれば、このような配当を受けるにとどまる債権者に対して、利害調整を設ける必要はないと言えます。

もっとも、強制執行のうち強制競売にあたっては、目的不動産の買受人の存在が観念できるため、このような買受人が手続上出現した場合は、買受人の利害関係を図る必要があります。買受人は配当要求をする債権者と違い、執行手続にフリーライドしている者とは言えないからです。

そのため、本条ではこの買受人の利害関係を調整するために、買受人出現後の強制競売の申立てを取り下げる場合の制限を規定しています。

買受の申出があった後の取り下げの制限(1項)

まず、買受の申出があった後に、強制競売の申立てを取り下げる場合は、すでに強制競売に参加して利害関係を有するに至っている買受人を保護するため、取り下げについて買受人の同意が必要となります。

もっとも、目的不動産について他に差押債権者がある場合であって、不動産権利関係の変動により効力を失わない事項に関する物件明細書(民事執行法62条1項2号)に変動が生じない場合は、買受人の同意がなくとも申立ての取り下げを行うことができます。


取消文書の提出制限(2項)

強制執行の取消文書についても、その提出を無限定に許すとなると、買受人の利益を害することになります。そのため、2項では取消文書のうち、強制執行をしない旨またはその申立てを取り下げる旨を記載した裁判上の和解または調停の調書の正本(民事執行法39条1項4号)及び、強制執行を免れるための担保を立てたことを証する文書(民事執行法39条1項5号)については、本条1項の規定を準用し最高価買受申出人等の同意を要することとしています。

この点、なぜ取消文書のうち4号及び5号の文書のみが本条の適用対象になっているかについては、まず4号及び5号は、債務名義の成立や存立過程に支障があるものではなく、その外的要因によって効力が否定されるためと言えます。また、4号及び5号は、債権者、債務者双方または単独の意思に基づくものである場合が多いため、文書として早期の提出が求められるものといえるので、適切な提出期間を過ぎた後の、買受人出現後に提出をするのでは遅きに失するとして、その提出の制限を図ろうとする意図があるためです。

取下げの効果

適法な取下げがなされると、強制競売手続は当然に終了し、かつ、差押えの効力は遡及的に消滅します。

また、執行裁判所の裁判所書記官は、取下げが適法にされたときは、競売開始決定に係る差押えの登記の抹消を嘱託しなければなりません(54条1項)。

民事執行法条文解説

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