201602.05
【第74条】
① 売却の許可又は不許可の決定に対しては、その決定により自己の権利が害されることを主張するときに限り、執行抗告をすることができる。
② 売却許可決定に対する執行抗告は、第71条各号に掲げる事由があること又は売却許可決定の手続に重大な誤りがあることを理由としなければならない。
③ 民事訴訟法第338条第1項 各号に掲げる事由は、前二項の規定にかかわらず、売却の許可又は不許可の決定に対する執行抗告の理由とすることができる。
④ 抗告裁判所は、必要があると認めるときは、抗告人の相手方を定めることができる。
⑤ 売却の許可又は不許可の決定は、確定しなければその効力を生じない。
以下、解説です。
不動産の強制競売手続において裁判所が当該目的不動産の売却を許可とするか不許可とするかによって、債務者側としては不動産を失うこととなるかについて、買受申出人側としては不動産を入手できるかについてそれぞれ強い利害関係を有します。
そのため、お互いが自分にとって満足の出来ない決定がなされた場合には、本条1項に基づき執行抗告を行うことによって不服申し立てを実行できるものとされています。法は、売却許否の決定が持つ特殊性や重要性に鑑み、明文で特別に執行抗告という救済手段を定めているわけです。
売却の許否の決定に対する執行抗告は、誰でも行えるものではなく、その決定によって自己の権利が害される場合である必要があります。
まず、債権者としては、強制競売の目的不動産をなるべく高い金額で換価してほしいと考えるものですので、不動産についての売却許可決定額が不相当に低額である場合は、換価されても満足に債権を回収できない可能性があると言えますので、自己の権利が害されるとして執行抗告を行うことができます。
また、売却不許可決定がなされた場合は、債権回収という強制執行の目的が達成できなくなるため、この場合も執行抗告を行うことができます。
次に、債務者は売却許可決定がなされた場合、自己の不動産を失うため、自己の権利が害される場合に当たると言えます。もっとも、売却許可決定の全てに対して執行抗告ができるのではなく、あくまで適法な競売手続から逸脱した、違法な競売手続によって売却許可決定がなされた場合に限定されるものとなります。また、債務者は売却不許可決定については何らかの権利が害されるということは想定できないため、この場合執行抗告はできません。
次に、買受申出人は、売却許可決定がなされた場合は、当初目的が達成されていると言えるため、自己の権利が害される場合とは言えませんが、他人が自分の氏名を冒用して強制競売に参加したような例外的な事由がある場合は、執行抗告を求めることができます。
また、買受申出人は、自己に対する売却不許可決定に理由がないと考える場合においては、執行抗告を行うことができます。
71条各号は売却不許可事由を限定列挙しており、それに当てはまる場合であるにもかかわらず、売却許可決定がなされた場合は、執行抗告の理由とすることができます。
また、71条各号以外であっても、重要な誤りが売却許可決定の手続きにある場合は、執行抗告の理由とすることができます。例えば、最高価買受申出人でない者を買受人としてしまうことや、買受申出価額以外の価額で売却を許可する場合、などが挙げられます。この重要な事由は列挙できるものだけにとどまらず、具体的な事案に応じて判断する必要があります。
民事訴訟法338条1項各号は民事訴訟において終局判決が出て確定した後の再審事由について定めた規定になります。この再審事由がある場合は、1項や2項で定められた執行抗告を主張できる者の範囲、執行抗告が主張できる事実の範囲の制約を受けずに執行抗告の理由とすることができます。
そのため、売却許否決定により自己の権利が害されることを主張しない場合であっても、誰でも執行抗告の理由として主張することができます。
執行抗告を受け付ける抗告裁判所は、必要がある場合に抗告人の相手方を定めることができます。
売却許否の決定については、名宛人以外に相手方が当然に存在するとは限りません。もっとも、執行抗告がなされることによって、自己の権利が影響を受けるような者がいる場合は、その者から事実及び法律上の主張を聞き、抗告人と相対する相手方として捉えることについて一定の要請が働くため、この場合執行裁判所は相手方を定めることができます。
これは、後から執行抗告について利害関係のある者が異議の主張をすることで手続きが混乱しないよう、売却許否決定の段階で、そのような利害関係を有する者の関与を求めることで、迅速かつ円滑な決定を実現することを目指す趣旨です。
売却許否決定に対する執行抗告をめぐる抗告裁判所の判断は、高等裁判所の決定として扱われますので、再抗告は許されません。(裁判所法7条2項)また、特別抗告(民事訴訟法336条)は確定を遮断する効力を持たないので、この決定をもって抗告裁判所の決定が確定することになります。
管轄裁判所と
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