201505.27
えー、今回のコラムはややマニアックです。一部の法律関係の仕事に従事されている方々を除いて、そもそも第三者異議の訴えって何だよ?っといった感じの印象を受ける方が大半だと思います。
第三者異議の訴えが何なのかを一言で申しますと、不当な強制執行で権利侵害を被った第三者が債権者に対して、『その強制執行ちょっと待った!中止にしてくれ!』と訴えることができる権利、のことを言います。
民事執行法38条1項を引用すれば、
『強制執行の目的物について所有権その他目的物の譲渡又は引渡しを妨げる権利を有する第三者は、債権者に対し、その強制執行の不許を求めるために、第三者異議の訴えを提起することができる。』
というわけです。
ところで、この第三者異議の訴えにはいくつか特徴があります。
まず、訴えの原告となることができるのは、執行対象財産が責任財産に属さないものと主張する者です。ちなみに、第三者の債権者も債権者代位権に基づいてこの訴えを提起できる解されています。
また、第三者異議の訴えは、その不許を求める当該強制執行の終了後に提起された場合には、訴えの利益がないものとして、不適法となり却下を免れないという点も特徴の1つです。
加えて、請求異議の訴えや執行文付与に対する異議の訴えが、債務名義に基づく執行の可能性を一般的に排除するものであるのに対し、第三者異議の訴えは、特定の財産に対する執行を排除するものである点も特徴の1つです。
以下、AがBに対して有する1000万円の貸金債権の債務名義に基づき、B名義の所有権登記のある甲土地について不動産強制競売を申立て競売開始決定がなされた場合という具体例において、
①甲土地が実際には第三者Cの所有であった場合
②競売開始決定前に甲土地をCがBから買い取ったが所有権移転登記が未了の場合
③甲土地はもともとC所有であったが競売申立て前に仮装譲渡で所有権登記名義人がBとなっていた場合
の3パターンのケースに分けて競売手続との関係についてそれぞれ検討してみましょう。
この場合、甲土地はC所有で本来的にBの責任財産を構成しないので、Cによる第三者異議の訴えは認められ、Aの申立てによる強制執行は排除されます。
すなわち、このケースでは登記を備えていたところでBは無権利者であり(日本の法制度では不動産登記簿に公信力は認められていません)、その無権利者に対して強制執行をした差押債権者も権利を取得することができません。
このケースは、Bの土地所有権について、Cへの譲渡とAの強制執行に基づく差押えが競合してその優劣が問題となる事案であるので、Cが差押債権者たるAに対して自らの所有権を主張するには、移転登記手続により所有権登記を備えている必要があります。
しかし実際には移転登記は未了であるので、Cはいわゆる民法177条の登記の欠缺を主張する正当の利益を有する第三者(大連判明治41年12月15日民録14-1276)たるAに対抗することができず、たとえCがAを被告として第三者異議の訴えを提起しても、AがCの所有権について対抗要件たる登記の具備が必要なこと(いわゆる対抗要件の抗弁)を主張すれば、Cの請求は認められず請求棄却判決が言い渡されることとなります。
つまり、この事案においては、AはCに対して『あなたには登記がないでしょ。登記がなければ第三者異議の訴えをしても私には対抗できませんよ』と主張できる正当な利益を有する者、に該当するのです。
Cが税金滞納による税務署からの差押えから逃れるために、名目上Bに売ったことにしてBに移転登記をしてあったような場合です。このような場合、BC間は通謀虚偽表示にあたり原則として移転登記は無効となり(民法94条1項)、Bは無権利者扱いとなります。Bが無権利者扱いとなれば、AはC所有の不動産をB所有のものと勘違いして差し押さえたことになるので、CにはAに対して強制執行の不許の訴えをする利益が認められそうです。
ただし、Aが当該通謀虚偽表示について善意であれば民法94条2項が適用されてCは第三者異議の訴えを通じて虚偽表示の事実をAに対抗できない点には注意が必要です(Cに虚偽の外観を作出した帰責性が認められる場合ですね)。
つまり、Aが善意の場合には、Aの差押えが有効となり、CはAに対して自己の所有権を主張できず第三者異議の訴えは認められません。この点において、同じくBを無権利者扱いする①の事例とは、異なる帰結となります。
【参照文献】
新版デュープロセス民事訴訟法・民事執行法・民事保全法/竹下貴浩
民事執行・保全法(有斐閣アルマ)
民法から考える民事執行法・民事保全法/高須順一
管轄裁判所と
事件番号を入力して下さい。