201602.12
【第73条】
① 数個の不動産を売却した場合において、あるものの買受けの申出の額で各債権者の債権及び執行費用の全部を弁済することができる見込みがあるときは、執行裁判所は、他の不動産についての売却許可決定を留保しなければならない。
② 前項の場合において、その買受けの申出の額で各債権者の債権及び執行費用の全部を弁済することができる見込みがある不動産が数個あるときは、執行裁判所は、売却の許可をすべき不動産について、あらかじめ、債務者の意見を聴かなければならない。
③ 第一項の規定により売却許可決定が留保された不動産の最高価買受申出人又は次順位買受申出人は、執行裁判所に対し、買受けの申出を取り消すことができる。
④ 売却許可決定のあった不動産について代金が納付されたときは、執行裁判所は、前項の不動産に係る強制競売の手続を取り消さなければならない。
以下、解説です。
本条の趣旨は、複数の不動産が売却された場合において、そのうちのある不動産の買受申出額で債権者の債権額の全部を弁済と執行費用の負担をすることができるような場合においては、必要な限度を超えて売却がなされることにより債務者が不利益とならないよう調整を図るところにあります(いわゆる無益執行禁止の原則)。
例えば、3個の不動産が売却なされた場合に、2個の不動産を売却することで、債権額を全額弁済し執行費用も負担できるような場合は、残りの1個について売却をする必要性がなくなるため、売却許可決定を留保して債務者の利益を保護するといったものです。
これは、差し押さえ段階では超過差押えを抑制するための規程が存在しない不動産執行において特徴的な規定と言えます(動産執行および債権執行においては、超過差押えが明文上禁止されています)。
なお、本条にいう「各債権者」とは、申立債権者、その先順位または同順位債権者のみを指し、後順位債権者を含まないとされています(担保不動産競売について東京高決昭58.4.19金法1057号44頁)
複数の不動産を強制競売に付した結果、その中のある不動産の買受申出額が債権額と執行費用を超える場合は、両者の弁済に十分であることから、複数全部の不動産について売却許可決定をしなくても、必要な程度で売却許可決定をすれば足りることになります。
もっとも、この必要な程度でなされた売却許可決定が執行抗告や代金不払いにより失効した場合、その余の不動産が売却不許可決定として取り扱われていたとすると、その余の不動産に対し強制執行をするには再度売却手続を実施することになり迂遠となります。
そのため、債権額と執行費用を弁済できる見込みのある不動産以外の不動産についても、売却不許可決定にするのではなく、あくまで売却許可決定を留保するという形で調整を図っています。
複数の不動産について売却がなされた結果、買受申出額で債権者の債権額及び執行費用の全部を負担することのできる見込みがある不動産が複数ある場合は、裁判所はどの不動産について売却の許可をするかについて債務者の意見を聴かなければならない旨を定めています。
例えば、ABCDの4つの不動産を売却した場合に、このうち2つの不動産について売却をすれば、債権及び執行費用の全部を負担できるような場合は、この4つの不動産のうちいずれの不動産について売却するかについて、裁判所は債務者の意見を聞く必要があるといったものです。
不動産を売却することで、必要な費用はすべて支払うことができるのであれば、あえて債務者の負担が大きい売却方法を取る必要性がないので、債務者の意見を聞いて、売却許可決定について一定の考慮を求めるものです。
もっとも、債務者は意見を述べることはできますが、売却する不動産について指定をすることはできません。
超過売却により、一定の不動産について売却許可決定が留保されることとなった場合、その不動産の最高買受申出人らは売却許可決定が出るかどうかが不明な状態であるにもかかわらず、買受の申出についての拘束を受けることとなってしまい、不都合を招きます。
そのため、売却許可決定が留保されるようになった場合は、最高買受申出人らにおいて買受の申出の撤回ができることを認めその保護を図っています。
売却許可決定をした不動産について当該決定が確定し代金が納付された場合には、その代金の交付手続きを実施するとともに、売却許可決定が留保された不動産については、強制競売手続きの対象にする必要がなくなるため、売却決定期日を開くことなく強制競売の手続きは取り消されることになります。
管轄裁判所と
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